ある朝、目覚めると雪が降っていた。
ユキノトモシビ
「まぁ……」
カーテンを空けた途端、一面の銀世界。
結露した窓にひた、と手を当て、ラクスは思わず溜め息を零した。
「綺麗ですわ……」
そういえば昨夜はとても寒かった。普通の寒さではなく、どこか、何かが違う寒さ。
「正体は、白い妖精さんだったんですのね…」
足跡一つない、銀の大地。
そこに舞う白の結晶は、まるで小さな妖精のようで。
もう一方の手と、それから額もぴと、と窓にくっつけた。
目を閉じると、感じるのは掌と額の冷たさだけとなる。
毛布の中で温まった体が冷えていくようだったが、それでも構わなかった。
目を閉じれば、感じる。
(……………、いのち…)
ラクスは知っている。
このすっぽりと被せられた地の奥底に、幾人もの命が眠っていることを。
戦という名の殺し合いで、犠牲になった者達が眠っているということを。
静かに、静かに。
眠っていることを―――――…
「…………」
ラクスは目を開けた。
そこには先程と同じように綺麗な銀の景色があった。
誰が思うだろう、ここに昔、何が起こっていたかなど。
誰が気付くだろう、ここで昔、人々が死んだことを。
「気づけるはずも、ありませんわ…」
だって、まるでここは、何もなかったように、何もなかったように…
「何が?」
「!」
ぴと、と。
背中の後ろに温かい熱が伝わった。
「おはよ、ラクス。」
「キラ?いつの間に…」
「今。ドア、開いてたよ」
「あ…」
そういえば、ドアを開けたのは自分だった。
そんなことを考えながら、背中にキラの体温を感じて、ドキっとした。
指先の冷たさと、背中の温かさ。
「何、考えてたの」
「え」
何かを鋭く見抜かれた気がして、ラクスは息を呑んだ。
振り向かないまま、窓に当てたままの手を握りながら言葉を探る。
「雪は、」
「うん」
「雪は、こんなに綺麗ですのに、」
どうすればいいのだろう。
この気持ちを伝えるには。
雪は綺麗で綺麗なままで良いのに。
だけど、ここにはもう、あの悲劇を忘れてしまったかのように静かなときが流れている。
それが。
「もどかしくて、たまらない――――――――…」
大地を汚してしまった私達が負うもの。
それは、こんな幸せで良いのか。
まだ分からないでいる。
どうすれば、いいのか。
「………………………僕は、」
耳元でキラの低い声がして、はっと我に返った。
「僕は、伝えるよ」
背中のぬくもりと、耳元の吐息に鼓動するように身体が震えた。
そっと後ろをう振り返ると、アメジストの真直ぐな瞳。
自分の侵した罪と、他人の犯した罪。
「戦争という名の罪があったことを、僕なら伝える」
自分の侵した罪と、他人の犯した罪。
「だって、ココがどんなに綺麗になっても、僕達は一生忘れないから」
僕達が犯した罪は重い。
それでもこんなにも綺麗に雪が降る。
春になれば花が咲き、夏になれば日差しが射し、秋になれば紅葉が舞う。
それが僕達の傷の癒し。
それでも、忘れちゃいけないことがある。
「僕は伝えるよ。誰かが忘れても、時がたっても、それでも」
「……キラ…」
なら、私はどうしたら良いのでしょう…?
「君には、唄があるでしょ?」
君の歌は、きっと僕なんかよりとってもうまく、伝えることができると思うよ。
だから。
「伝えよう、ラクス」
雪に、罪はないのだから。
「―――――――――…はい……」
君の雫は、どんな雪よりも綺麗だった。
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